本の感想|インダス文明の謎  古代文明神話を見直す

長田俊樹著  京都大学学術出版会  2013.10.10

10年近く前か、女系優位社会と戦争ごとがなかったインダス文明という話を耳にしました。どうやら、2013.04.30のNational Geographic報告がネタ元のようです。
インダス文明と言えば、2000年7月23日に放映の「NHKスペシャル インダス文明」が大きな話題になりました(後から知りました)。新たに発掘されたドーラーヴィーラー遺跡を中心の報道でした。

インダス文明の捉え方は随分変わったようで、この本を手に取りました。とはいえ、もう6年半以上も前の本です。著者は1954年生まれ、20台後半よりインドへ留学後、毎年のようにインド東部を訪れる。京大系の総合地球環境学研究所で事前調整から企画まで インダス・プロジェクトに参画。2005.12~2009.03の遺跡発掘調査のリーダー。著者は考古学者ではなく、言語学者。探検への憧憬、大学探検部出身、インド最古の言語・少数民族言語であるムンダ語を研究(インダス文字の解読の可能性を思う)から、のめり込んだようです。

■インダス文明
紀元前2600~1900年に栄える。東西交流の西域の南にあり、メソポタミアとの交流もあり。盛期の前にも、後にも文化の軌跡あり。4大文明のなかでは、一番遅く、期間も短い感じです。文明の隆起と衰退の原因が何だったのでしょうか。
「インダス文明遺跡は広範囲に分布している。東西1500キロメートル、南北1800キロメートルにもおよぶ。・・・インド亜大陸西北部のインド、パキスタン、アフガニスタンにまでまたがっている・・・その後明らかになった遺跡を含め、最新の概説によると(2013)、約2600遺跡にのぼる。・・・ⅵ」

■インダス文明といえば、モエンジョダロ・ハラッパーですが
有名な2都市は、インダス川右岸、パキスタン側にあります。遺跡は印パ国境を挟んでインダス川両側に、また沿岸部にも広がります。紛争中でもあり、交流どころか国境を超える行き来は不可能のようです。1990年以降はインド側の発掘調査が盛んで、インド側での新規発見・発掘が多い。
今日では、インダス文明の5大都市と呼ばれます。モヘンジョダロ、ハラッパー、ガウンウェリワーラー(インダス川左岸チョーリスターン砂漠で飛びぬけて大きい)、ラーキーガリー(インド最大のインダス文明遺跡、デリーから西北西130キロメートル、ハラッパーから東南東へ160キロメートル)、ドーラーヴィーラー(インド最西部のグジャラート州カッチ県)を中心としてインダス文明が捉えられています。この順で訪問記・調査記録が述べられています。
インダス文明は、インダス川と支流・雨季川(乾季には川底を現す)と沿岸に広がる上記の大きな5都市と数多い小さな都市のネットワークでできています。

■問いかけ
著者は、「インダス文明ははたして大河文明か」と問います。モエンジョダロは明らかにインダス川のほとりにありますが、他は関係性が弱い。インダス川の肥沃な耕地に広がる農業形態ではない。絶対王権といった政治形態がなかった。という3点からです。飲み水・農業水は不可欠で、砂漠地帯から沿岸に広がるとはいえ、大きくはインダス流域の水(雨水も含め)に依拠し、大河文明でしょう。大きな権力は、条件にならないです。

■著者のインダス文明像
「インダス文明においては、流動性の高い人々がネットワークによって文明を担ってきた。・・・流動性とネットワークが新しいインダス文明のキーワードであること・・・」294p

「インダス文明社会は多民族多言語社会であった。また、多数の職能集団が独自の社会を形成し、それぞれがお互いを補完しながら社会を支えてきた。そこには、農民もいたし、牧畜民もいたし、狩猟採集民もいた。商人もいれば、職人もいた。かれらは流動性も高く、雨季や乾季にあわせて移動もした。その移動を円滑にするために、お互いインダス印象を保持し、言葉が通じないところでは、インダス印象が互いの出身や職業を認識しあいあコミュニケーションをとるための一助となった。大都市はこうした移動民が一同に会する場所で、常時都市に住んでいる人よりも季節にあわせて移動する人々が多かった。」286p

■一番驚いたこと・・・インダス文明期の海水準
「・・・これ(アイソスタシー=地殻均衡)によれば、インダス文明が栄えていた頃は、いまの海水準よりも2メートル高かったという数値がでている。」250p
「・・・地質情報・・・まず、7000年前はいまよりも海水準が7メートル高かったと考えられ、ランは海だったことがわかった。・」251p

海水準の大きな変化です。今の温暖化による海水面の上昇など、まだかわいい?

■大目次
はじめに
§1 インダス文明とはなにか
§2 モヘンジョダロ遺跡とハラッパー遺跡・・・インダス文明に関する神話
§3 パキスタンの砂漠地帯に広がるインダス遺跡・・・涸れた川とインダス文明
§4 ガッガル川流域を踏査する・・・はたしてサラスヴァティー川は大河だったのか
§5 ドーラーヴィーラー遺跡――乾燥した「水の要塞都市」
§6 カッチ県とその周辺――海岸沿いのインダス文明遺跡と流通
§7 新しいインダス文明像を求めて
おわりに

脇田 幸三

建築家 株式会社綜設計代表
岐阜市生れ 名古屋市在住
1989年11月綜設計設立
主に住宅・マンション・医院を設計
名古屋工業大学大学院修了
テーマ:“大きな人を育て、大きな人生を歩む”住まい
趣味:読書、朝のランニング