本の感想|人新世の「資本論」

斎藤幸平著 集英社新書

Web記事の”脱成長”という記事から、新年早々注文しました。「人新世」って何? いまさら「資本論」? とは、思いましたが。意外や新鮮! 読み応えありました。

Wikipediaによれば、人新世( Anthropocene, アントロポセン)とは、人類が地球の地質や生態系に重大な影響を与える発端を起点として提案された、完新世(Holocene, ホロシーン)に続く想定上の地質時代である。地球の大気に関して直近数世紀の人類行動の影響が新たな地質時代を構成するほど重要であると考えた大気化学者パウル・クルッツェンによって2000年にこの用語が広く普及した。と、あります。私たち人が、地球に対し大きな改変を始めた地質年代です。 マルクスについては、「共産党宣言」+α程度の知識しかありません。資本主義の矛盾に対して、いくらか希望をもちましたが。資本論第一巻刊行後、亡くなるまで15年近く続編を描かなかったのが、不思議でした。
ソ連や中国の共産主義は、マルクスが描いた経済社会とは異質なものだろうことは、わかります。ソ連邦崩壊後、共産主義は資本主義に負けちゃった感が広がりました。資本主義とは別な経済社会システム像がない状態が続いています。インダス文明に戦争の痕跡がなく、交易で繁栄し、女が家を守るような平和的都市国家群だったようですが、違いますね。

突如、光明がさしたのが、この本です。

現在、私たちは危機にあります。気候変動、環境破壊、資源の枯渇、南北格差拡大、覇権主義による戦争危機やテロリズムなど。1990年代以降のグローバリズムは、問題を深刻化させています。情報化・セジタル化、金融商品の横溢、都市化、高齢化などを伴っています。そして、新型ウィルス・コロナ禍にあります。

著者は、気候危機とグローバル・サウスの格差・環境危機に焦点をあてます。危機は差し迫って、猶予はほとんどない、と。そこで、新たな経済社会システムの提案です。マルクスの資本論に基づくコミュニズム・共産主義です。えっ? んー? ですよね!

若きマルクスは、生産力至上主義とヨーロッパ中心主義があったようです。それが資本論第一巻刊行後辺りから、見直しに入ります。古代社会や非西欧社会のコモン=共同体と、物質代謝としての環境=地球を猛勉強して、エコロジー社会を想定します。晩期には、はっきりと「脱成長」を打ち出し、自然と人類の物質代謝のエコロジカルな共同体をイメージしていた、と。ここでは、「生産関係」をテーマにして、市民・労働者による自発的な協業を大事にしていこう、と。

資本主義は、経済成長を止められません。このまま進めば、二酸化炭素排出量は増大し、グルーバル・サウスにある資源は採掘し尽くされ、食料は先進国・富裕層向けに栽培されて貧困だけが残り、気候危機と食糧危機は深刻化します。これ以上の成長を止めなければ、資本主義がほろびる前に地球に大惨事が襲う、と。

実際に生活に必要な物の使用価値ではなく、交換価値=稀少性=差異を極限化し、商品を際限なく生産し、大量消費を繰り返し、利潤を追求するのが資本主義です。都合の悪いことは外部化し、見えないグローバル・サウスにしわ寄せがいく。資本主義を止めろ、それには、ポスト資本主義として「脱成長」あるいは「定常型経済」、減速成長しかない、といいます。確かに私たちは、グローバル・サウスの貧困・環境破壊・食糧危機を知ろうとも見ようともせず、日々に埋没しています。

資本主義に対峙する術は、あるのか?最初から腰が砕けそうです。が、糸口はある、といいます。身近なところで共同体=コモンをつくり、使用価値のある物を生産し、交換価値で流通する商品を減じていきます。コモンに参加する労働者・市民が自治的・民主的な管理をし、輪をグローバルに大きくしていくのだ、と。
最終章には、可能性のある事例がいくつも描かれています。ガウディとバルサで有名なバルセロナが、フィアレス・シティ(恐れ知らずの都市)として紹介されています。知らない世界の動きが満載です。

気候危機に対する世界の動きを厳しく批判しています。国連が主導し、多くの企業が掲げるSDGsは「大衆のアヘン」である!と、いいます。経済成長を前提にしているから、問題の先送りでしかない、と。グリーン・ニューディールも、ジオエンジニアリングも気候変動をとめることはできない。「緑の経済成長」は、不平等を一層拡大させながら、グローバルな環境危機を悪化させてしまう、と。
次のような数字は、じーさん世代でも放っておけません。
「世界の富裕層トップ10%が二酸化炭素の半分を排出しているという、驚くべきデータもある。」「他方で、下から50%の人々は、全体のわずか10%しか二酸化炭素を排出していない。」「先進国で暮らす私たちは、そのほとんどがトップ20%に入っている。日本人なら大勢がトップ10%に入っているだろう。」

著者は、自由、平等で、公正かつ持続可能な社会を打ち立てることを目指しています。

どんな人物かと、思いますね。Web情報です。1987年2月1日生まれ、34歳。東京育ち、芝中学校・高等学校(愛知県の東海中学校・高等学校と兄弟校)を経て、理Ⅱ(3か月在籍)、リベラルアーツを志向してアメリカのウェズリアン大学へ。そのあとベルリン自由大学哲学科でヘーゲルについて修士論文、フンボルト大学博士課程でMEGA全集を編集メンバーに。2014年「人間と自然との物質代謝」に焦点を当てて博士論文(独語)、2018年マルクス研究界最高峰の賞ドイッチャー記念賞を受賞。当時31歳で歴代最年少、日本人初受賞。これを基に日本で2019年『大洪水の前に』を出版。現在、大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。
アメリカ、ドイツ、日本、そして世界の社会情勢や研究をタイムリーに練り上げた強者です。

脇田 幸三

建築家 株式会社綜設計代表
岐阜市生れ 名古屋市在住
1989年11月綜設計設立
主に住宅・マンション・医院を設計
名古屋工業大学大学院修了
テーマ:“大きな人を育て、大きな人生を歩む”住まい
趣味:読書、朝のランニング